障害者の子供を持つ親御さんが、年齢を重ねるにつれて、少しずつ気になってくることがあります。
それは、「私が元気なうちは何とかなる。でも、私が入院したら? 私が認知症になったら? そして、私がいなくなったら、この子はどうなるのだろう」という不安です。
この不安は、とても自然なものです。
そして実は、このテーマこそ、終活の中でもとても大切なものです。
私は、終活アドバイザー、薬剤師、ファイナンシャルプランナーとして、日々さまざまなご相談を受けています。
その中で感じるのは、「障害のあるお子さんの将来を考えること」は、単なる福祉の話ではなく、親御さん自身の終活であり、場合によってはおひとりさま終活そのものだということです。
配偶者がいても、兄弟姉妹がいても、実際の介護や金銭管理、通院の付き添い、役所の手続き、日々の見守りを一人で担っている親御さんは少なくありません。
そうなると、形式上は「家族がいる」ように見えても、現実には「自分が倒れたら回らない」という、実質的なおひとりさま終活になります。
この記事では、障害者の子供を持つ親御さんに向けて、今からできる備えを、できるだけ日常の言葉で、少し現実的に、でも必要以上に怖がらせない形でお伝えします。
大事なのは、完璧に準備することではありません。
「少しずつ、見える化していくこと」です。

なぜ今、親御さんの終活が必要なのか
そう思うお気持ちはよくわかります。実際、毎日の生活を回すだけで精いっぱい、というご家庭も多いです。
ただ、終活は、亡くなる準備だけではありません。
“もしものときに生活が止まらないようにする準備”でもあります。
特に、障害のあるお子さんがいるご家庭では、親御さんが一時的に動けなくなるだけでも、影響が大きくなりやすいです。
たとえば、
・通院先がわからない
・いつも飲んでいる薬の内容が家族に伝わっていない
・お金の管理を親しかしていない
・福祉サービスの連絡先を親しか知らない
・本人が安心できる生活パターンが共有されていない
こうした状態だと、「数日入院しただけ」でも、家の中が急に混乱することがあります。
以前、私がご相談を受けたご家庭でも、お母さまが肺炎で急に入院された際、通所先への連絡、服薬の確認、金銭管理、食事の好みまで、全部がお母さまの頭の中にしかありませんでした。
結果として、周囲は善意で動いてくれても、本人にとっては環境の変化が大きく、不安定になってしまいました。
このようなことは、特別なケースではありません。
むしろ、「よくあること」です。
だからこそ、早めに始める終活には意味があります。
そして、障害者の子供を持つ親御さんにとっての終活は、“親なきあと”の前に、“親が少し動けなくなったとき”に備えることから始まります。
おひとりさま終活として考えるべき理由
けれど、ここでいうおひとりさま終活は、戸籍上の独身かどうかだけではありません。
たとえば、
・配偶者も高齢で支えきれない
・兄弟姉妹は遠方に住んでいる
・親族関係が薄く、頼みにくい
・子供のことを深く理解しているのが自分しかいない
・将来的に家族だけでは支えきれないと感じている
このような場合、実質的には「一人で将来設計をしている状態」です。
つまり、障害者の子供を持つ親御さんの終活は、かなりの確率で、おひとりさま終活の視点が必要になります。
「誰かが何とかしてくれるだろう」と考えるより、
「今のうちに、誰かが動ける形にしておこう」と考えた方が、現実的です。
ここを受け入れるのは、少しつらいかもしれません。
でも、逆に言えば、ここを認めた瞬間から、準備は前に進みます。
まず整理したいのは「生活」「お金」「支援者」の3つ
ただ、最初から全部やろうとすると、必ず疲れてしまいます。
そこで、まずは次の3つに分けて考えるのがおすすめです。
1. 生活の整理
・起床・就寝の時間
・食事の好み
・苦手なこと
・落ち着く声かけ
・通院先
・服薬内容
・通所先や就労先
・緊急時に連絡が必要な相手
こうした情報は、親御さんにとっては「当たり前」でも、他人にはわかりません。
だからこそ、紙に残しておく意味があります。
2. お金の整理
このあたりが、ざっくりでも見えているだけで、将来の不安はかなり減ります。
障害年金には、障害基礎年金・障害厚生年金などの制度があり、条件に応じて受給の対象になります。制度の入口は日本年金機構の公式ページで確認できます。
3. 支援者の整理
・相談支援専門員
・通所先の職員
・主治医
・薬局
・訪問看護
・ヘルパー
・地域包括支援センター
・市区町村の福祉窓口
厚生労働省の案内でも、障害福祉サービスは個々の状況に応じて支給決定される仕組みで、自治体の地域生活支援事業も含めて運用されています。
つまり、「制度はある」だけでなく、「地域と人をつないで初めて使える」ものです。
備え1:親だけで抱え込まない仕組みをつくる
これは愛情でもありますし、長年の積み重ねでもあります。
ただ、それが続くと、親御さんが動けなくなったときに、一気に困ります。
最初にやっていただきたいのは、“親しか知らない情報”を減らすことです。
たとえば、
・連絡先一覧をつくる
・通院先・薬の情報を1枚にまとめる
・生活上の注意点を書いておく
・週1回だけでも他者が関わる機会を増やす
・相談支援専門員や事業所と定期的に情報共有する
これだけでも違います。
「まだ人に任せるほどではない」と感じる段階でも、顔合わせだけはしておく。
この“少し早いくらい”の準備が、後で効いてきます。
身近な家族の代わりに、“関わる人の層を増やしていく”ことがとても重要です。
備え2:お金の流れを、ざっくりでいいので見える化する
でも、終活では、お金の不安が大きいほど、行動が止まりやすくなります。
大事なのは、細かい家計簿を完璧につけることではありません。
まずは、次の3つを分けることです。
<毎月入るお金>
・障害年金
・親の年金
・手当
・その他の収入
<毎月出るお金>
・家賃
・食費
・通院費
・薬代
・デイサービスや通所費
・通信費
・日用品代
<将来まとまって出る可能性のあるお金>
・引っ越し費用
・施設入居関連費
・葬儀や死後事務関連費
・成年後見等の申立て関連費用
・契約関係の整備費用
ここで大切なのは、
「足りるか、足りないか」を厳密に出すことよりも、
“今のお金の流れを他人が見てもわかる状態にする”ことです。
親御さんが一人で管理している通帳、引き落とし、保険、現金の置き場所。
これらがブラックボックスのままだと、いざという時に止まります。
ファイナンシャルプランナーとしてご相談を受ける中でも、「お金がない」のではなく、「整理されていないから不安」というケースは本当に多いです。
整理されるだけで、見えてくる選択肢は増えます。
備え3:薬・通院・体調の情報は、終活の中でも特に大事
障害のあるお子さんの中には、
・複数の診療科にかかっている
・服薬が長期にわたっている
・飲み方に工夫が必要
・環境の変化で体調が崩れやすい
・言葉で不調を伝えにくい
という方も少なくありません。
こういうケースでは、親御さんしか知らない情報が本当に多いです。
たとえば、
・この薬は粉なら飲める
・この薬は眠気が出やすい
・朝に機嫌が悪い日は体調不良のサイン
・便秘が続くと不安定になりやすい
・病院で待つのが苦手だから順番取りが必要
こうしたことは、診断名よりも、実際の生活では大事です。
だから、終活というと遺言や相続を思い浮かべる方も多いのですが、障害者の子供を持つ親御さんにとっては、
“医療情報を生活情報として残すこと” も立派な終活です。
1枚のメモでもかまいません。
「この子を支えるための取り扱い説明書」のような感覚で、書き始めてみてください。
備え4:成年後見制度・任意後見を“早すぎる話”にしない
でも、ここも避けて通れません。
裁判所の案内では、成年後見制度は、認知症・知的障害・精神障害などによって判断能力が十分ではない方を法律面で支える制度とされています。
また、任意後見については、本人が元気なうちに契約をしておき、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点から効力が生じる仕組みです。
法務省の説明でも、その点が示されています。
さらに、任意後見契約は公正証書で作成することが前提とされています。
ここで大事なのは、「すぐに契約しましょう」という話ではありません。
そうではなく、
“わが家にとって、いつ・どの制度が必要になりそうか”を、早めに知っておく ことです。
たとえば、
・子供本人の権利を守る手続きが必要になる場面はあるか
・親亡きあと、金銭管理や契約支援を誰が担うのか
こうしたことを、まだ元気なうちに家族や専門職と話しておく。
それだけでも、だいぶ違います。
制度は万能ではありません。
ですが、知らないまま困るより、選択肢として知っておく方が安心です。
備え5:住まいと日中の居場所を、今のうちから少しだけ広げる
・ずっと自宅なのか。
・グループホームのような選択肢を考えるのか。
・通所を増やすのか。
・就労支援を検討するのか。
厚生労働省の障害福祉サービスの案内では、介護給付・訓練等給付などの枠組みがあり、日中活動や住まいの場を組み合わせて支援を受ける考え方が示されています。
ただ、制度があるからといって、すぐに答えが出るわけではありません。
実際には、本人の性格、地域の事業所、年齢、体調、家族関係でかなり違います。
だからこそ、最初から「最終形」を決めなくて大丈夫です。
・見学だけ行ってみる
・体験利用をしてみる
・相談支援専門員に情報をもらう
・短時間の外部利用から始める
このくらいでも、十分な一歩です。
「まだ早い」ではなく、「まだ元気なうちだからこそ、試せる」と考えると、気持ちが少し楽になります。
親自身の終活も、同時に整えておく
障害者の子供の将来を考えると、どうしても子供の準備ばかりに目が向きます。
でも、実際には、親御さん自身の終活が整っていないと、子供の生活も守りにくくなります。
たとえば、親御さんについても、
・通院先
・持病
・服薬情報
・緊急連絡先
・保険証や重要書類の保管場所
・介護が必要になった場合の希望
・葬儀や死後の事務の考え方
こうしたことを整理しておく必要があります。
これは、親御さんのためだけではありません。
親御さんが倒れたときに、周囲がすぐ動けるようにするためです。
まさに、おひとりさま終活の核心はここです。
「迷惑をかけない」というより、
「困ったときに、支える人が動きやすい形にしておく」こと。
その視点があると、終活はぐっと実務的になります。
終活全体の考え方は、こちらのブログ一覧 でも、さまざまな角度から確認できます。
私がご相談でよく感じる「本当に必要な備え」
むしろ、最初の一言は、こんな感じです。
「私に何かあったら、この子がごはんを食べられるか心配なんです」
「兄弟はいるけれど、そこまで頼れない気がしていて…」
「お金のことも制度のことも、何から手をつければいいのかわからないんです」
この“何から手をつければいいかわからない”は、ごく普通です。
だから私は、いつも最初に、難しい制度の話よりも先に、
・誰が関わっているか
・何のお金が動いているか
・どんな毎日を送っているか
この3つを一緒に整理することから始めます。
ここが整うと、そのあとに必要な制度やサービスが見えやすくなります。
逆に、ここが見えていないと、立派な制度だけ調べても、現実には動きません。
今日からできる、小さな5つの準備
まずは、次の5つだけで十分です。
1.お子さんの通院先・薬・連絡先を1枚にまとめる
2.毎月のお金の出入りをざっくり書き出す
3.親以外で関わっている支援者の名前を一覧にする
4.もしものときに頼みたい人を1人だけでも決める
5.月に1回、将来の話を家族か支援者と口に出す
全部を一気にやる必要はありません。
ひとつでも動けば、それは立派な終活です。
より具体的に備えを整理したい方は、項目別サービス を見ると、どのテーマから相談できるか分かりやすいと思います。
継続的に伴走が必要な方は、終活終身サポート のような形で、少しずつ一緒に整えていく方法もあります。
公的情報を確認するときの参考リンク
障害福祉サービスの概要は厚生労働省、成年後見制度は裁判所、任意後見制度は法務省、障害年金は日本年金機構の案内が基本になります。
厚生労働省|障害福祉サービスについて
裁判所|後見ポータルサイト
法務省|任意後見制度について
日本年金機構|障害年金の制度
まとめ|「親なきあと」の前に、「親が動けない日」への備えを
むしろ、日々まじめに支えてきた親御さんほど、早めに取り組んでおいた方がいいテーマです。
終活というと、どこか大げさに感じるかもしれません。
でも実際は、
・情報をまとめる
・支援者を増やす
・お金を見える化する
・制度を知っておく
・親自身の備えも整える
この積み重ねです。
そして、障害者の子供を持つ親御さんの終活は、かなりの場面で、おひとりさま終活の考え方が役に立ちます。
「一人で抱える」のではなく、
「一人でも回るように整えておく」。
この発想に変わるだけで、見える景色は少し変わります。
完璧でなくて大丈夫です。
むしろ、少し曖昧なままでも、途中でも、動き始めることに意味があります。
今の不安を、将来の安心に変えるために、できるところから整えていきましょう。
個別に整理したいことがある方は、お問い合わせフォーム からご相談ください。
ご家庭ごとの事情に合わせて、無理のない順番で一緒に整理していくことができます。